なぜ障がい者支援の現場でチームワークは成果に直結するのか?
結論から言うと、障がい者支援の現場でチームワークが成果に直結するのは、支援の対象が「多面的・継続的・関係依存的」だからです。
すなわち、1人の支援者や単一職種ではカバーしきれない生活・健康・教育・就労・権利擁護の各側面を、複数の専門性と当事者・家族の知恵を束ねて一貫した方針で実行することで、初めて目に見える行動変化、生活の安定、就労定着、QOL(生活の質)の向上として表れるという構造があります。
以下、その理由と根拠を体系的に示します。
1) 多面的アセスメントと目標の統合
– 人の生活は身体機能、認知・感情、環境(家族、学校、職場、地域)との相互作用で成り立ちます。
WHOの国際生活機能分類(ICF)は、機能と参加、環境因子を統合的に捉える枠組みを示しており、障がい者支援でも標準参照枠になっています。
多職種(相談支援、介護、看護、療法士、就労支援、教育、精神科・小児科など)がチームで評価することで、見落としが減り、支援の優先順位が合意されます。
– 個別支援計画(日本では計画相談支援・サービス等利用計画や事業所の個別支援計画)が当事者の価値観に沿って共通目標に翻訳されると、全員が同じ方向に力を掛けられ、達成度が高まります。
GAS(Goal Attainment Scaling)のような目標達成評価は、チームでの目標共有と実行度が成果と関連することが報告されています。
2) 一貫性・予測可能性が行動と安心をつくる
– 自閉スペクトラムや知的障害などでは、環境の一貫性と予測可能性が安心と自己調整を支えます。
チームで方針と対応(例えば前向き行動支援 Positive Behavior Support)を統一し、ABC記録(Antecedent-Behavior-Consequence)を共有することで、問題行動の誘因が減り、行動の頻度・強度が下がることが多くのレビューで示されています。
個人の努力だけでは再現できない「統一対応」にチームは不可欠です。
3) リスクマネジメントと安全文化
– 支援現場は転倒、誤薬、誤嚥、虐待防止、感染対策など多様なリスクに直面します。
情報共有(申し送り、SBARなどの共通言語)、ダブルチェック、ヒヤリ・ハットの学習、手順書の整備はチームで機能します。
医療・福祉領域の研究では、チームベースの安全介入はインシデントの減少や有害事象の予防と関連します。
4) 迅速な問題解決と資源への接続
– 状況が悪化する前に、外来受診、福祉用具、住宅改修、権利擁護、金銭管理支援、地域活動などの資源につなぐことが重要です。
相談支援専門員やケースマネジャーを核にしたチームは「境界をまたぐ」調整役となり、早期介入を実現します。
重層的支援体制や自立支援協議会など、地域の連携プラットフォームもこの役割を制度的に支えています。
5) 意思決定支援とエンパワメント
– 障害者権利条約(CRPD)は本人の意思と選好の尊重を求め、支援付き意思決定(Supported Decision-Making)を促します。
チームで情報をわかりやすく提示し、合理的配慮を調整し、リスクと選択を共に検討すると、自己決定が実現し、主体的参加が増え、長期的な生活満足度が高まります。
6) 家族支援と持続可能性
– 生活の多くは家庭で営まれます。
家族の負担軽減、ペアレントトレーニング、レスパイト、介護技術の共有などは、支援の持続性を高め、緊急入院や施設入所の回避に寄与します。
家族をチームの一員として扱うことは、現実的で効果的な戦略です。
7) スタッフのバーンアウト予防と関係の継続
– 重度支援や行動障害への対応は消耗を伴います。
スーパービジョン、リフレクティブ・プラクティス、相互支援はストレスを下げ、離職を減らします。
人の成長には「関係の継続」が重要で、スタッフ定着はそのまま成果に跳ね返ります。
8) 学習する組織と継続的改善
– 目標・実行・評価・改善(PDCA)をデータで回すのは個人ではなくチームです。
導入した介入(例 視覚支援、スケジューリング、社会参加プログラム)の効果を行動データやQOL尺度でモニタリングし、仮説検証を重ねることで、支援が利用者に合う形へ磨かれます。
9) 就労・教育・医療の橋渡し(実証の強い領域)
– 就労支援では、IPS(Individual Placement and Support 個別職業紹介・定着支援)モデルが国際的に最も実証されており、メンタルヘルスや発達障害を含む人々で、従来型よりも「競争的雇用の獲得率・就労日数」が一貫して高いことが多数のランダム化比較試験で示されています。
成功の鍵は、医療・福祉・雇用側の三者が「一体のチーム」として動く点です。
– 地域精神保健のACT(包括型地域生活支援 Assertive Community Treatment)や多職種外来の取り組みでも、入院日数の減少、住居安定、満足度向上などの効果が報告されています。
障がいの種別が違っても、「チームで包括支援を行うとアウトカムが改善する」という原理は共通します。
10) 権利基盤と制度的裏付け(日本)
– 日本の障害者総合支援法、発達障害者支援法、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律は、本人中心の計画、地域連携、多職種協働を明確に要請しています。
介護・障害福祉・医療の報酬でも連携加算が設定され、チームで働くこと自体が制度的に価値付けされています。
これは「チームが成果に資する」という政策的合意の反映です。
メカニズムの「なぜ」に踏み込むと
– システム論 生活は複雑適応系で、相互作用の質がアウトカムを左右します。
チームは相互作用を設計し、全体最適(局所最適の総和以上)を生みます。
– 社会モデル 障害は個人の機能だけでなく環境によって生じます。
環境調整(合理的配慮、アクセシビリティ)には多主体の協働が不可欠です。
– 学習理論・行動分析 一貫した強化スケジュールと環境設定が行動変容を促します。
チームが一貫性を担保します。
具体的な成果指標とチームの寄与例
– QOL領域(人間関係、自己決定、幸福、物質的安定、社会参加) チームで社会資源やコミュニティにつなげるほど向上。
– 健康・安全 誤薬・転倒・誤嚥の減少、受診・服薬アドヒアランスの向上。
– 学習・スキル 日常生活動作、コミュニケーション、就労スキルの獲得速度が上がる。
– 就労・学業 就労定着率、出席・単位取得率の改善(IPSやスクールベース支援の知見)。
– 継続性 利用中断の減少、危機介入件数の減少。
– コスト 重篤化予防による医療・入所費の抑制(統合ケアの国際報告に多数)。
実践の要点(チームワークを成果に直結させるために)
– 役割の明確化と共通言語(ICF、SBAR、PBIS/PBSなど)を持つ。
– 本人中心計画と合理的配慮の合意(リスク共有、意思決定支援)。
– 定例の個別支援会議と短いハドルでマイクロ調整。
– データ駆動(行動頻度、参加回数、GAS、満足度)のモニタリング。
– 学校・医療・福祉・雇用の境界を越える連携窓口(相談支援専門員の活用)。
– 家族をチームメンバーとして位置づける。
– 心理的安全性とスーパービジョンで学習文化を維持。
– ICTの活用(共有記録、アラート、チェックリスト)。
根拠の出典(方向性の示唆)
– 国際枠組み WHO ICF(2001)、障害者権利条約(2006)—多面的評価と参加・協働の必要性を明示。
– 実証研究
– IPSモデル 多数のRCTとメタ分析で、競争的雇用の獲得率が従来型の約2倍に(就労支援のチーム介入の強固なエビデンス)。
– 前向き行動支援(PBS) 系統的レビューで問題行動の有意な減少とQOL向上が報告。
– チーム医療・統合ケア 急性期から在宅・長期ケアまで、連携強化が再入院率・有害事象・満足度の改善と関連する報告が蓄積。
– 日本の制度・政策 障害者総合支援法、計画相談支援、地域自立支援協議会、重層的支援体制整備事業、医療的ケア児支援法—いずれも多職種連携・地域包括・本人中心を規範化。
厚生労働省の連携加算やガイドラインは、連携が成果につながるという政策的根拠。
ケースの具体像(イメージ)
– 重度知的障害とてんかんを持つ成人。
作業所での問題行動が多発。
チームが発作兆候と疲労を誘因と特定し、勤務スケジュール・休憩・作業工程・視覚支援・服薬タイミングを再設計。
家族にもセルフモニタリングを共有。
結果、インシデント半減、作業時間増、本人の満足度向上。
単独支援では達成困難な「環境総体の調整」が鍵。
– 発達障害の高校生。
学校・家族・放課後等デイ・医療・就労支援が合同で個別移行計画を作成。
職場体験と合理的配慮の事前合意、通学から通勤への移行練習を並行実施。
卒業後のブランクなく就職・定着。
これは部門横断の調整がもたらす典型的な成果です。
要するに、障がい者支援の「成果」は、個人の能力だけでなく、環境と関係の設計によって生まれます。
チームワークは、その設計を実現する唯一の現実的な方法です。
多面的アセスメント、統一された支援方針、迅速な連携、意思決定支援、安全文化、学習する組織というメカニズムを通じて、QOL、行動の安定、就労定着、安全、費用対効果といったアウトカムに直結します。
制度・研究・理論の三層で根拠が積み上がっている点も、現場でチームワークを最優先事項に据えるべき強い理由と言えるでしょう。
多職種・当事者・家族を含むチームはどのように意思決定を行うのか?
障がい者支援の現場で多職種・当事者・家族を含むチームが力を発揮する鍵は、「本人中心(パーソンセンタード)」と「権利に根ざした支援」を土台に、透明で反復可能な意思決定プロセスを共有することにあります。
意思決定は一度の会議で完結するものではなく、情報の見える化、合意形成、試行、振り返りを繰り返す継続的なプロセスです。
以下に、具体的な進め方と現場での工夫、そしてその根拠を整理します。
意思決定の基本原則
– 本人の意思・希望を最優先に据えること(自己決定・意思決定支援)。
理解や表現の方法に応じた合理的配慮を前提とします。
– 代行ではなく「支える意思決定(Supported Decision-Making, SDM)」を採用し、本人の選好形成・選択を助ける。
代理決定は最終手段。
– 多職種の専門性を統合し、医学的・心理社会的・生活・就労・福祉・法的観点をバランスよく反映する。
– 安全と自律のバランス(dignity of risk 尊厳あるリスク)をとり、過度のリスク回避による生活の縮減を避ける。
– プロセスと責任分担の透明性(誰が何を決め、誰が説明し、誰が実行するのかを明確化)。
– エビデンスに基づく説明と、本人の価値観との適合(Evidence-informed, value-based)。
– 継続的モニタリングと見直し(Plan-Do-Check-Act)。
標準的な意思決定プロセス(日本の制度・実務に即して)
– 情報収集・アセスメント
– 相談支援専門員やサービス管理責任者が中心となり、医師、看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、心理職、精神保健福祉士、社会福祉士、就労支援員、学校・企業担当者などが、心身機能、活動・参加、環境因子をICFの枠組みで整理。
– 当事者・家族の生活史、強み、価値観、優先課題、リスク、社会資源を可視化。
必要に応じWHODAS 2.0、COPM、GASなどのツールを活用。
– 事前共有とアジェンダ設定
– 会議前に、分かりやすい資料(やさしい日本語、ピクトグラム、読みやすい版)を本人に提供し、選択肢・論点・意思決定方法を合意。
– 時間・場所・参加者・情報保障(手話通訳、要約筆記、コミュニケーション機器、同席者の選定など)を調整。
– サービス担当者会議(合意形成の場)
– 計画相談支援のプロセスに位置づく会議で、相談支援専門員がファシリテート。
本人・家族が実質的に参加し、ピアサポーターが関与する場合も。
– ミーティングの基本ルール(発言順、時間配分、資料の読み合わせ、専門用語の翻訳、反対意見の扱い)を明確化。
– 目標設定と選択肢提示(共有意思決定)
– 長期の生活目標(例 一人暮らし、就労、地域参加)と短期の実行可能な目標を階層化。
GASやCOPMで合意可能な目標を数値化・言語化。
– 複数の選択肢について、利点・不利益・負担・費用・必要な支援量・リスク・エビデンスを中立的に提示し、本人の価値観に照らして比較。
– リスク評価と合理的配慮の検討
– 事故・服薬・行動上のリスク、医療的ケアの必要性、近隣との関係、財産管理などを多職種で評価し、リスク低減策と支援密度を調整。
– 本人の希望と社会的リスクのトレードオフを可視化し、最小制限の原則で合意。
– 意思決定ルールと合意
– 可能な限り全会一致(コンセンサス)を目指し、時間制約がある場合は「十分にインフォームドな本人の選択」を決定基準とする。
– 役割・責任の明確化にはRACI(Responsible, Accountable, Consulted, Informed)を応用。
– 文書化
– サービス等利用計画(相談支援)と個別支援計画(事業所)に、目標、具体的支援、役割分担、評価指標、モニタリング頻度、リスク対応を記載。
本人・家族に読みやすい版を提供し合意サインを得る。
– 実施・モニタリング
– 実行後は、定期モニタリング(例 毎月・四半期)で進捗、満足度、副作用、リスク事象を確認。
必要に応じケースレビュー・ミニ会議。
– 再アセス・再計画
– 状況変化(入退院、転職、家族の変化、症状変動)時は臨時会議を開催し、柔軟に計画を更新。
コミュニケーションと意思決定を支える技法
– 情報保障とアクセシビリティ
– やさしい日本語、点字、拡大文字、手話通訳、要約筆記、AAC機器、視覚教材、写真・動画、リハーサル、同行支援。
– Teach-back法で理解確認。
意思表示が難しい場合は、好みの行動指標、過去の選択履歴、家族・ピアの補足を活用。
– チームコミュニケーションの標準化
– SBAR(状況・背景・評価・提案)で報告。
TeamSTEPPSのブリーフ、チェックバック、デブリーフで情報の抜け漏れ防止。
– 意思決定支援ツール
– 決定支援ガイド、比較表、リスク・ベネフィット一覧、目標達成スケール(GAS)、選好の明確化ワークシート。
意見の相違・倫理的ジレンマへの対応
– 当事者と家族の希望が異なる場合、独立したファシリテーター(相談支援専門員や第三者)やピアを活用し、本人の意思形成を優先。
– 判断能力に関する懸念がある場合も、能力は領域・時間で変動する前提で、最大限の支援のもと意思を引き出す。
代理決定は最小限・一時的。
– 安全 vs 自律の対立は、具体的リスク低減策(見守り、環境調整、テクノロジー活用)を提示し、尊厳あるリスクの範囲で合意。
– 難題は倫理カンファレンスとして論点整理(自律、善行、無危害、公正)し、議事録で透明化。
場面別の意思決定例
– 医療・入退院調整
– 医療ソーシャルワーカーと連携し、退院前カンファレンスで住環境改修、訪問看護、福祉用具、服薬管理、通所等を一体設計。
– 就労支援
– 本人希望(一般就労か福祉的就労か)と強み・支援必要量を踏まえ、企業・就労支援機関・家族と役割分担。
職場合理的配慮を交渉。
– 強度行動障害・発達障害
– 機能的アセスメントに基づくポジティブ行動支援(PBS)をチームで合意。
環境調整と一貫した対応を文書化。
成果の可視化(評価指標)
– 目標達成度(GAS)、本人満足度、QOL(生活の質)、参加度(地域活動・就労)、入院・危機対応の減少、計画変更の迅速性、苦情件数の減少、チームのバーンアウト低減など。
根拠(制度・ガイドライン・研究)
– 国際的枠組み・権利
– 障害者権利条約(UN CRPD, 2006/日本は2014年批准) 第12条(法の前の平等)一般的意見No.1(2014)は、支える意思決定(SDM)を各国に求め、代理決定からの転換を促しています。
– WHO ICF(国際生活機能分類, 2001) 心身機能・活動・参加・環境の統合モデル。
多職種評価・計画の共通言語として根拠づけ。
– 日本の制度・運用
– 障害者総合支援法および計画相談支援の枠組み サービス等利用計画の作成、サービス担当者会議の開催、モニタリング・再計画のプロセスが通知・手引きで示されています(厚生労働省 各種通知・業務運営の手引)。
– 介護保険施設等における意思決定支援ガイドライン(厚生労働省, 2017) 本人意思の尊重、意思形成支援、家族・多職種連携、記録の重要性を具体化。
障害分野でも同趣旨の実践が推奨されています。
– 成年後見制度利用促進基本計画(内閣府, 2017・2022改定) 意思決定支援の充実、本人の権利擁護、地域連携の推進を明記。
– 共有意思決定(SDM)の効果
– Cochraneレビュー(Stacey et al., 2017, Decision aids for people facing treatment decisions) 決定支援ツールは、知識向上、期待の現実適合、受動的意思決定の減少、意思決定の質の改善に有効。
– ElwynらのThree-talkモデル(2017)は、選択肢提示・比較・決定の段階を明確化し、臨床・福祉の対話を構造化。
– 多職種連携・チームトレーニング
– TeamSTEPPS(AHRQ発, 2006–) 標準化コミュニケーション(SBAR等)やチーム行動の訓練で、医療安全・チーム成果を改善するエビデンスが蓄積。
福祉現場への応用研究も進み、情報共有ミスやインシデントの減少に寄与。
– Interprofessional collaborationの系統的レビューでは、連携強化がケアのプロセス指標や利用者満足に好影響を与える報告がある一方、導入品質や組織文化が決定要因であることが指摘されています。
– チーム基盤のサービスモデル
– ACT(包括型地域生活支援チーム)は、重度の精神障害者で入院日数の減少・地域定着の改善をもたらすことが複数研究で示され、日次のチーム意思決定・役割分担が成果に寄与(Bond et al., 2001ほか)。
– 目標設定・評価ツール
– GAS(Kiresuk & Sherman, 1968起源) 個別目標の達成度を定量化し、チーム内合意形成と成果評価を両立させる手法として、リハ・障害支援で広く妥当性が報告。
– COPMは本人中心の目標設定・満足度評価ツールとして再現性・感度が検証。
現場での実装のコツ
– 会議は「本人のための場」であることを再確認し、難解な専門用語はその場で翻訳する役割を置く。
– 「決める前に試す」小さな実験(行動試行・通所体験・職場実習)を意思決定に組み込む。
– 反対意見は「潜在的リスクや価値の違いの情報」と捉え、データで検証。
結論を急がず、期限と再検討条件を設定。
– 議事録は読みやすく、決定理由も記載し、本人がアクセスしやすい形で保管・共有。
– チームの学習サイクル(デブリーフ)を習慣化し、うまくいったこと・改善点・次回の仮説を毎回1つずつ明確化。
まとめ
多職種・当事者・家族チームの意思決定は、本人中心・権利基盤の原則のもと、標準化された手順(アセスメント→共有→会議→合意→文書化→実施→モニタリング→再計画)と、情報保障・共有意思決定・チームコミュニケーション技法によって質が担保されます。
日本の制度(計画相談支援、サービス担当者会議)自体がこの循環を支える設計になっており、国際的なエビデンス(SDM、チームトレーニング、ACT、GAS/COPM)もその有効性を支持しています。
現場では、「本人の声を最大化する工夫」「小さく試して振り返る」「責任分担の明確化」「透明な記録」を重ねることで、チームワークの力が意思決定の質と生活の質の向上につながります。
情報共有や引き継ぎを円滑にする具体的な仕組みは何か?
障がい者支援の現場は、生活・医療・就労・教育・家族関係・福祉制度が複雑に交わるため、情報共有と引き継ぎ(ハンドオーバー)がチームワークの質を左右します。
以下では、現場で実装しやすく効果が検証されている具体的な仕組みを、導入のコツや注意点、根拠とともに整理します。
共有すべき情報の標準化(「どの情報を、どの粒度で、どこに」)
– 個別支援計画の一本化と短縮版
– 法定の個別支援計画(長期目標・短期目標・支援方針)を「1ページプロファイル(One-Page Profile)」として要約。
本人の強み、好み・苦手、効果的な関わり方、リスクと対応、緊急連絡先をひと目で把握できるようにします。
– ICF(国際生活機能分類)の枠組みで、心身機能・活動・参加・環境因子を分けて記載すると、多職種間で抜け漏れが減ります。
– 行動支援・医療・リスクのテンプレート化
– ポジティブ行動支援(PBS)の要素(行動の機能、トリガー、早期兆候、予防策、望ましい代替行動、危機時の最小限対応)を定型フォーム化。
– 医療情報は投薬マップ(処方、服薬時間、禁忌、アレルギー)、吸引・経管栄養など医療的ケアの手順、感染症時の隔離・受診基準を標準書式に。
– リスクアセスメント(転倒・窒息・誤薬・外出時逸脱・虐待兆候・自傷他害)を色分けし、対応レベルを明確化。
– 日常記録の構造化
– 日々の記録は「SBAR+ICF」を意識して、状態(睡眠、食事、排泄、服薬、気分)、行動(ABC記録 Antecedent-Behavior-Consequence)、介入と結果、未完了タスク、家族・外部連絡をチェックボックス+自由記載で両立。
– 事故・ヒヤリハットは別フォームで即時報告、24時間以内レビュー、72時間以内の是正策まで一気通貫。
ハンドオーバーの手順と場づくり(「どう渡すか」)
– 定時ブリーフィングとハドル
– 各勤務の開始・終了に10~15分の定時ブリーフィング。
新規リスク、投薬変更、受診予定、感染情報、スタッフ欠員と代替策を一括共有。
– 日中は5分のミニハドルで計画変更を即時同期(例 体調変化によるプログラム変更)。
– SBAR/I-PASSの活用
– 口頭引継ぎはSBAR(Situation-Background-Assessment-Recommendation)またはI-PASS(Illness severity-Patient summary-Action list-Situation awareness and contingency planning-Synthesis by receiver)で統一。
– 受け手の「要約の復唱(Synthesis/Read-back)」を必須化。
特に投薬・アレルギー・緊急対応はダブルチェック。
– 静かな環境と役割
– ハンドオーバーは中断のない場所で、ファシリテーターを明確化。
タイムキーパーを置き、脱線を防止。
– 書記と見える化
– 重要事項はホワイトボードやデジタルダッシュボードに要点掲示(氏名や個人情報の露出にはマスキング等の配慮)。
当番制で書記を設定。
ICTの活用とセキュリティ(「どこに蓄えるか、どう守るか」)
– 電子記録・グループウェア
– 福祉業務支援システムや共有ドライブで、個別支援計画、日誌、事故報告、勤務表、研修記録を一元化。
モバイル入力で訪問現場から記録可に。
– 権限管理(RBAC)、多要素認証、監査ログを実装。
オフライン時の紙ベース代替(ダウンタイム手順)も整備。
– テンプレートとデータ辞書
– 項目名の定義(例 問題行動、見守りレベル)をデータ辞書に固定し、用語ブレを防止。
プルダウン化で集計可能に。
– 情報連携アプリと同意
– 家族向け連絡帳アプリや写真共有は、同意取得と目的限定、通知頻度のルール化、緊急時の連絡優先順位を明確に。
多職種カンファレンスとレビュー(「合意形成と学び」)
– 週次または隔週カンファレンス
– 支援員、看護、OT/PT、医師(必要時)、ソーシャルワーカー、就労支援、相談支援専門員、家族を交え、目標進捗、課題、計画修正を協議。
ICFの各領域で短期目標をSMART化。
– デブリーフとAAR
– 事故・緊急対応後のデブリーフ(事実の共有→原因分析→改善策→担当と期限)。
感情のケアも含めバーンアウト予防。
– 反復的改善(PDCA)
– 小さな実験(PDSAサイクル)で手順や記録様式を改善。
月次でKPIを可視化。
外部機関連携と移行支援(「組織の壁を越える」)
– 共有同意と情報連携
– 相談支援専門員、医療機関、学校、就労先、自治体との情報提供は、本人・家族の同意に基づく範囲・期間を明文化。
– 退院・転入時のトランジションパック
– 要約(診断、機能、薬、リスク、支援方法、福祉制度の利用状況、緊急時の計画)を標準パックとして受け渡し。
– 定期のサービス担当者会議
– 年1~2回以上の全体会議と、変化発生時の臨時会議で方針統一。
ナレッジマネジメントと人材育成(「知を組織に残す」)
– 現場Wiki・SOP
– 頻出手順(吸引、誤嚥対応、コミュニケーション方法、送迎手順、虐待兆候の見立て)を動画・図解つきで整備。
更新履歴と版管理。
– オンボーディング
– チェックリスト、eラーニング、シミュレーション、ペアリング(メンター制)、3カ月レビューで定着確認。
– 事例検討とリフレクション
– 倫理的ジレンマや本人意思決定支援の振り返り会を定例化し、暗黙知を形式知化。
本人中心・アクセシビリティ(「本人の声が中心」)
– 本人参加の引継ぎ
– 本人が望む範囲で、目標や支援希望、嫌なこと、コミュニケーション手段を直接共有。
コミュニケーションパスポートやイージーリード資料、絵カード、手話・要約筆記・通訳を活用。
– 一貫した合理的配慮
– 支援方法の「こうすると上手くいく」を全員で合わせる。
新人にも一目で伝わるビジュアルガイドを現場に掲示。
指標と可視化(「効いているかを測る」)
– プロセス指標
– ハンドオーバー実施率、所要時間、復唱率、記録の当日入力率、事故報告のレビュー完了率。
– アウトカム指標
– 転倒・誤薬・行動エピソードの頻度、救急受診件数、未実施ケア、本人満足・家族満足、スタッフ離職・欠勤、残業時間。
– フィードバック
– 月次ダッシュボードを職場で共有し、改善を全員事業に。
実装ステップ(「小さく始めて育てる」)
– 3カ月パイロット
– 1ユニットでSBARテンプレ+日誌の構造化+朝夕ブリーフィングを試行。
基準値を取り、改善効果を測定。
– 標準化と横展開
– 成果が出たらSOP化し、研修と監査で定着。
例外運用を最小化。
– デジタル化は段階的に
– まず紙テンプレで運用を固め、要件が見えた段階でシステム化。
現場主導の要件定義が重要。
法令・倫理・BCP(「守るべきを守る」)
– 法令遵守
– 障害者総合支援法・指定基準に基づく個別支援計画の作成・モニタリング、サービス提供記録の作成・保存、事故等の報告、虐待防止委員会・研修の実施は必須。
個人情報保護法に基づく利用目的の特定と第三者提供の同意が必要。
– プライバシーと同意
– 最小限開示(Need to know)、アクセス権限、持ち出し禁止、匿名化の徹底。
写真・動画は目的・期間を限定。
– 事業継続(BCP)
– 感染症・災害時の引継ぎ簡略版(緊急連絡先、医療・薬、リスク、避難支援計画)を携行カード化。
停電・通信断に備えた紙運用手順と訓練。
根拠(エビデンス・制度)
– 標準化されたハンドオーバーの効果
– 医療領域ではI-PASSの導入により引継ぎ関連の有害事象が有意に減少(Starmer AJ et al., N Engl J Med 2014)。
SBARはコミュニケーションの齟齬を減らす枠組みとして広く普及(Haig KM et al., Jt Comm J Qual Patient Saf 2006)。
障がい者支援は医療と福祉の中間に位置し、同様の高リスク情報を扱うため、標準化の恩恵が大きいと推測されます。
– WHOや患者安全機関は「ハンドオーバー時の構造化」を患者安全ソリューションとして推奨(WHO Patient Safety Solutions, 2007)。
AHRQのTeamSTEPPSはブリーフ・ハドル・デブリーフ、チェックバック、CUSなど具体技法を提示し、チーム成果の改善が報告されています。
– 行動支援と記録の根拠
– PBSは機能的アセスメントに基づく包括的計画が行動課題を減少させ生活の質を高めるとするエビデンスが蓄積(例 Gore NJらのレビュー)。
ABC記録の継続によりトリガー同定と予防的支援が有効に。
– 電子記録と情報共有
– 電子記録・標準テンプレートの導入は記録の完全性・可用性を高め、ケアの継続性を改善することが各国の研究や実装報告で示唆。
監査ログ・権限管理は情報漏洩リスク低減に寄与。
– 日本の制度的根拠
– 障害福祉サービス事業の指定基準では、個別支援計画の作成・定期的見直し、サービス提供記録の作成・保存、事故発生時の報告・再発防止、虐待防止のための委員会設置と研修が求められています(厚生労働省通知等)。
これらは情報共有・引継ぎの仕組み整備を事実上義務づけています。
– 感染症・災害時の業務継続計画(BCP)整備が求められつつあり、緊急時に簡略化された要点引継ぎが有効とされています。
現場での注意点とコツ
– まず「なくせる紙」を減らし、記録は一度書いたら再利用される設計に。
二重入力は続きません。
– テンプレートは現場の言葉で短く。
自由記載欄を残して硬直化を避ける。
– ハンドオーバーは「情報を渡す場」ではなく「認識をそろえる場」。
受け手の要約復唱と合意が肝。
– 本人の意思とプライバシーを中心に。
家族共有の範囲は本人と合意形成し、必要最小限に。
– 成果は数字と現場の声で見える化。
小さな成功体験を積み、仕組みを現場文化に落とし込む。
まとめ
障がい者支援におけるチームワークの力は、本人中心の理念に支えられた「標準化された情報構造」「構造化された引継ぎ手順」「可視化された学習サイクル」によって最大化します。
SBAR/I-PASS、PBS、ICF、TeamSTEPPS、電子記録、定時ハドルとカンファレンス、PDCAとKPIという確立された部品を、法令遵守とプライバシー配慮のもとに自事業所の文脈へ丁寧に実装することが、円滑で安全な情報共有と引継ぎを実現する近道です。
連携を阻むコミュニケーションの壁をどう乗り越えられるのか?
障がい者支援の現場でチームワークの力が最大限に活きるかどうかは、ほぼコミュニケーションの質にかかっています。
多職種・多機関・家族・当事者が関わる支援は、目標・言語・制度が異なるため「連携を阻む壁」が生まれやすい領域です。
以下では、よくある壁の正体を整理し、それを乗り越える具体策と実装ステップ、効果の根拠までをまとめます。
連携を阻むコミュニケーションの壁(なぜ起こるのか)
– 目標と価値観のズレ
医療は安全・リスク低減を優先しがち、生活支援は自己決定・参加を重視しがち。
両者の意思決定スピードやリスク許容度の差が摩擦に。
– 役割と権限の曖昧さ
「誰が最終判断者か」「どこまで依頼して良いか」が不明確だと、遠慮・重複・抜け漏れが発生。
– 専門用語と文書文化の違い
医療系は診療記録中心、福祉系はケース記録中心。
用語とテンプレートが違い、同じ事象が違う言葉で記録されて伝わらない。
– 情報インフラの分断
事業所ごとの記録システム、紙・FAX・メール・チャットの混在。
既読やバージョン管理ができず、最新情報が共有されない。
– 階層と心理的安全性の不足
年次・資格・立場の差が強いと、疑問や異論を言い出しにくい。
エラーやヒヤリハットの報告も遅れる。
– シフト・訪問中心のワークフロー
断片的な引き継ぎや時間制約で、背景情報や意図まで共有できない。
– 法制度・プライバシーの制約
障害福祉と介護保険、教育、医療、雇用の制度境界が情報共有を難しくする。
本人同意や目的外利用の懸念で共有が止まる。
– 当事者のコミュニケーション特性と環境のミスマッチ
AAC(拡大代替コミュニケーション)ややさしい日本語、手話、点字などの合理的配慮が不十分で、ニーズが正確に拾えない。
– 感情負荷・燃え尽き
高頻度の対応や危機介入が続くと視野狭窄が起こり、相手の意図を悪意に解釈する傾向が強まる。
– 文化的背景・多様性への理解不足
家族文化、地域性、宗教、ジェンダー、神経多様性などに対する暗黙の前提が擦れ違いを生む。
壁を乗り越える実践策(個人・チーム・組織・地域の4層で)
A. 個人スキルを整える
– アクティブリスニングとリフレクション
相手の言葉を要約返しし、意図と感情を確認する。
曖昧さをその場で解消。
– 非暴力コミュニケーション(NVC)やDESCスクリプト
評価や決めつけを避け、観察→感情→ニーズ→具体的リクエストで伝える。
対立が起きた時も関係を壊さない。
– Teach-backとクローズドループ
重要ポイントは相手に自分の言葉で「復唱」してもらい確認。
聴き手も「受け取りました、〜します」と意図を返す。
– やさしい日本語・Plain Language
文を短く、専門用語は言い換え、1文1メッセージ。
箇条書きと具体例を使う。
– 多様なコミュニケーション手段の尊重
手話・文字・ピクト・写真・AAC機器・翻訳など、本人と家族が使いやすい手段を標準装備に。
B. チームの約束事と儀式を仕組み化する
– 共有ビジョンと「北極星指標」
例 「本人の自己決定が尊重され、望む暮らしに近づいているか」。
全員で合意し、会議冒頭に必ず確認。
– 役割の明確化(RACI)
Responsible/Accountable/Consulted/Informedをケースごとに明記。
誰が何を握るかが一目でわかる。
– 構造化コミュニケーション
SBAR(状況・背景・評価・提案)で連絡、I-PASSで引き継ぎ。
3点確認とチェックバックを徹底。
– 定時の短時間ハドルとプリブリーフ/デブリーフ
1日10分の立ち会議でリスクと優先順位を合わせ、終業時に「何が学びだったか」を1つ共有。
– 個別支援計画の「1ページサマリー」
重要情報(好み・強み・トリガー・医療安全・連絡網・緊急時手順)を1枚に集約し、更新日・責任者を明記。
– 当事者参画の標準化
ケース会議は原則本人同席。
意思決定支援の手順(選択肢の可視化、第三者の支援、再検討の余地)を明文化。
C. 情報共有インフラと記録の統一
– 共有ケアプランと連絡ノートのテンプレート化
日付・対象・目的・要点・アクション・期限・担当を固定項目に。
重要連絡は「結論→理由→詳細」の順に。
– 既読・タスク化できるツールの選定
事業所間は合意した安全なプラットフォームで。
緊急度レベルを色で統一。
– 同意管理とアクセス権
何を誰と共有してよいかをチェックリスト化。
本人の意思・家族の意向・法的要件を記録。
D. 組織・地域レベルの越境連携
– 相談支援専門員・サービス管理責任者・リンクワーカーのハブ化
情報の集約点と調整権限を明示し、他機関と「温かい引き継ぎ(Warm Handoff)」を標準に。
– 共同研修と相互シャドーイング
他職種の現場を半日ずつ見学。
言語と価値観の翻訳力が上がる。
– 自立支援協議会や地域包括の場を活かした合同カンファ
学校・医療・福祉・雇用・行政でケース横断課題を共有し、情報共有合意書を取り交わす。
– 法制度・リスクマネジメントの整備
情報共有規程、インシデント学習会、守秘違反時の対応を明文化。
E. 感情と負荷に目を向ける
– 臨床・福祉スーパービジョン、ピアサポート
月1回、感情の言語化と倫理的ジレンマの整理。
燃え尽きの予防。
– ワークロード管理
連絡窓口の一本化、会議の目的と成果の事前定義、文書テンプレートで時短。
F. 継続的改善のしかけ
– PDSAサイクルとKPTふりかえり
小さく試し、データで確かめ、仕組みに定着。
– 5 Whys・特性要因図で根本原因分析
人・プロセス・ツール・環境・制度の観点で再発防止策を設計。
現場での具体例(イメージ)
グループホーム入居者Aさん(てんかん既往)。
夜勤職員と訪問看護で発作前兆の見逃しが続き、情報共有が後手に。
対策として、
– 1ページサマリーに「前兆サイン」「対応手順」「家族・医師連絡先」を図解で掲載
– 夜間の引き継ぎをI-PASSで10分ハドル化
– 重要連絡はSBARで看護に即時共有、既読・対応締切をタスク化
– 発作後は24時間以内にデブリーフ、5 Whysで原因分析
3カ月で夜間救急搬送が減少し、前兆対応の実行率が向上。
家族の安心感もアンケートで改善。
成果を測る指標
– プロセス指標
重要連絡の既読までの平均時間、未完了タスク数、予定されたハドルの実施率、Teach-back確認率。
– 結果指標
重大インシデント・救急搬送の件数、未出勤・離職率、本人の満足・参加度(本人の言葉で測る)。
– チーム指標
心理的安全性(Edmondsonの7項目短縮版)、チーム気候、家族の信頼度。
– 学習指標
デブリーフからの改善提案数、PDSA完了サイクル数。
よくある落とし穴と回避策
– ツールだけ導入して行動が変わらない
形式より目的。
SBAR導入時はロールプレイとフィードバックで定着させる。
– 情報過多で埋もれる
重要情報は1ページに集約、チャネルを用途別に分ける。
通知ルールを合意。
– 「本人不在」の連携
会議時間や資料をやさしい日本語・図解に。
ピアサポーターや通訳を活用。
– 守秘の過剰解釈
同意テンプレートと共有範囲の明確化で、必要な情報は合法的に迅速に。
実装の90日プラン(小さく始めて広げる)
– 週1–2 現状診断
連絡フローの見える化、心理的安全性ミニサーベイ、失敗事例の収集。
北極星指標を決める。
– 週3–4 基礎整備
SBAR/I-PASSテンプレを決定、1ページサマリーの雛形作成、RACIの試案作り。
– 週5–8 小規模パイロット
1ケースで毎日ハドルとTeach-backを運用。
デブリーフでボトルネックを修正。
– 週9–12 拡大と制度化
共同研修(2時間)を開催、情報共有合意書と同意フローを文書化。
ダッシュボードで指標を可視化。
根拠(なぜこれでうまくいくのか)
– 心理的安全性と学習するチーム
異論や失敗を言える雰囲気は、エラー低減とイノベーションに直結(Edmondson, Admin Sci Q, 1999)。
短いハドルやデブリーフはこれを高める。
– 構造化コミュニケーションの有効性
医療におけるI-PASS導入で引き継ぎ関連ミスが減少(Starmer et al., NEJM, 2014)。
SBARは多職種間の認識合わせに有効という系統的レビューが複数存在。
– チームトレーニング(TeamSTEPPS等)
導入後にチーム行動と患者アウトカムが改善するというエビデンスが蓄積(AHRQの総説など)。
日本の多職種連携現場でも適用可能。
– Teach-backとPlain Language
患者・家族の理解とアドヒアランスを高め、再入院やエラーを減らす(Schillinger et al., Arch Intern Med, 2003; 系統的レビュー多数)。
– 個別支援・本人中心の計画
知的障害分野で、本人中心計画は満足度とコミュニティ参加を改善(Robertson et al., British Journal of Learning Disabilities, 2006 など)。
– AACの活用
適切なAACは意思表出と参加を有意に高める(Light & McNaughton, Augmentative and Alternative Communication, 2012)。
– インタープロフェッショナル教育(IPE)
多職種協働を改善し、ケアの質に良影響(Reeves et al., Cochrane Review, 2013)。
– 仕事の資源とバーンアウト
チーム支援や自律性は燃え尽きを緩和(Bakker & Demerouti, J Managerial Psych, 2007)。
定例のピアサポートやスーパービジョンが有効。
– リーン/改善手法のヘルスケア適用
ハドル、可視化ボード、PDSAは安全文化と結果改善に寄与(NHSのセーフティハドル事例等)。
– 日本の制度的裏付け
厚生労働省「意思決定支援ガイドライン」や自立支援協議会の活用は、当事者参画と適法な情報共有の枠組みを提供。
個別支援計画ガイドラインは多職種連携の要点を明示。
すぐに試せる小さな一歩
– 重要連絡をSBARで書き、冒頭に「結論」を置く
– 1ケースだけでも毎日10分ハドルを2週間続ける
– 個別支援計画の1ページサマリーを作り、壁に貼る(本人向けにピクト化)
– 会議の最後に「今日の学び」を一人1つずつ口にする
– 本人が理解しやすい表現で、意思確認をTeach-backする
結局のところ、壁を越える鍵は「共通の目的」「安全に話せる土壌」「構造化されたやり取り」「当事者の声を中心に据える」ことに尽きます。
ツールはそのための補助輪にすぎません。
小さく始めてデータで確かめ、うまくいったやり方をチームの標準にする。
この地道な積み重ねが、障がいのある人の生活の質と、支援者自身の働きやすさを同時に高める最短ルートです。
チーム力を継続的に高めるための振り返りと学習の方法は何か?
以下は、障がい者支援の現場で「チーム力を継続的に高める」ための振り返りと学習の方法を、実務で回せる形に落とし込んで整理したものです。
最後に、なぜそれが効くのかという根拠(研究や他分野の実証)も示します。
前提 チーム力を「見える化」して回す
– 目的の一致 本人の生活の質(QOL)と意思を中心に置き、支援の一貫性を高めることがチーム力の核です。
支援者の働きやすさや安全も目的に含めます。
– 小さく回す 大掛かりな改革ではなく、毎日の短い振り返り+月次の深い学習+四半期の戦略的見直しという階層に分けて継続します。
– 指標併用 成果(例 本人のエンゲージメント、事故・身体拘束・服薬ミスの減少)とプロセス(例 ハンドオーバー品質、カンファ参加率)を両方追います。
日々の振り返り(マイクロ・ループ)
– 立ち上がりハドル(朝5–10分)
– 形式 SBARで共有(Situation状況/Background背景/Assessment評価/Recommendation提案)
– 目的 今日のリスク、優先課題、役割分担を揃え、共通認識を作る
– 終了前デブリーフ(夕5–10分)
– 4F(Fact事実/Feeling感情/Finding学び/Future次にやること)で簡潔に
– ルール 「非難なし、行動に焦点、1つは具体策」
– ヒヤリハット即時レビュー(3分)
– 5Why(なぜを5回)で仮説を出し、翌日からの小テスト(PDSA)に回す
– ハンドオーバーの標準化
– I-PASS(Illness/Patient summary/Action list/Situation awareness/ Synthesis by receiver)で引継ぎ抜けを減らす
週次・月次の学習(ミドル・ループ)
– ケースカンファ(週30–60分)
– 構造化 ICF視点(機能・活動・参加・環境)、ABC/関数分析(行動の先行・結果)、目標はGASで数値化
– 三重の学習 ①個別介入、②チーム手順、③組織ルールの見直し
– 本人・家族の参加や録画視聴(同意の上)を取り入れ、現場感を共有
– AAR(アフターアクションレビュー イベント後48–72時間以内)
– 問い 何を期待したか/実際はどうだったか/うまくいった要因/次に変えること
– 運用 結論は1–2個の行動に絞り、担当と期限を明確に
– コーチング付きオンザジョブ学習
– ペアリング(バディ制)と相互観察(ピアレビュー)で技術と関わり方を磨く
– 動画フィードバック(本人の尊厳・個人情報に細心の配慮)で「気づき」を増幅
– コミュニティ・オブ・プラクティス(CoP)
– 分野別(嚥下、感覚特性、PBS、コミュニケーション等)の横断勉強会
– 外部専門職(OT/PT/ST/医師/相談支援)との合同ケース検討
四半期ごとの振り返り(マクロ・ループ)
– レトロスペクティブ(90–120分のオフサイト)
– データレビュー インシデント傾向、QOL/満足度、エンゲージメント指標、離職・欠勤、研修実施率
– システム思考の対話 ボトルネック、ルール・配置・ICT・研修の再設計
– 3つの優先改善テーマを設定し、次期のPDSAにブレークダウン
具体ツールと手順
– PDSA(Plan-Do-Study-Act)
– 例 送迎時の不安高騰→視覚スケジュール導入(Plan)→2週間試行(Do)→エピソード頻度と主観ストレスを記録(Study)→掲示位置と説明手順を微修正(Act)
– 学習ボード(見える化)
– 改善アイデア、進行中のPDSA、完了と効果、次の候補をカンバンで管理
– 標準化と適応のバランス
– ルーティンはチェックリスト化(服薬、移乗、入浴等)
– 個別性は「例外カード」で明示(Aさんは〇〇時はヘッドホン可、等)
– 記録の質向上
– 行動記録はABC様式、支援記録は「事実→解釈→次の行動」を分ける
– 共有は機密保持と本人の権利を最優先
文化と心理的安全性
– チェックインの習慣化(今日の調子1–5、懸念1つ)
– ジャストカルチャー(過誤は学びの資源、ルール違反は公正に扱う)
– ありがとうメッセージの可視化(称賛の比率を上げ、良い実践を増やす)
– 負担とケア バーンアウト予防
– シュワルツ・ラウンド(感情を言語化する場)
– 1on1のリフレクティブ・スーパービジョン(規範・教育・情緒の3機能)
指標(成果とプロセス)
– 成果系
– 本人のエンゲージメント(Active SupportのEMAC等)、挑戦的行動の頻度・強度、身体拘束・抑制の回数、医療・事故(転倒、誤薬)、家族・利用者満足、GAS達成度
– プロセス系
– ハドル実施率、I-PASS遵守度、AAR実施率、PDSA完遂率、研修・コーチング時間、ピアレビュー回数、離職・欠勤・ストレスチェック傾向
– フィードバック
– 月次でダッシュボード化し、全員に共有。
データは罰ではなく改善の羅針盤として扱う
実践例(現場シナリオ)
– 送迎時の高ぶりが頻発
– AARで「出発時刻の不確実性」「待ち時間の刺激過多」を特定
– 2週間PDSA 視覚スケジュール、出発3分前の予告、バス到着音の抑制
– 結果 エピソードが週5→週2、スタッフ主観ストレス平均が4.2→2.9
– 次のAct 本人がタイマーを操作するセルフマネジメントに拡張
– 誤薬のニアミスが散発
– ハンドオーバーをI-PASSに統一、ダブルチェックの指差呼称、類似薬の分離
– 4週でニアミス報告が60%減、引継ぎ時間は+2分だが残業は微減
よくあるつまずきと対策
– 時間がない
– ハドルは5–7分でタイムボックス、週次は1件のケースに絞る、月1回は人員を前倒し配置して学習時間を確保
– 形式だけになる
– 各会の最後に「誰が・いつまでに・何を」を必ず決め、学習ボードで追跡
– blame文化
– ルールを明文化(人ではなくプロセスに焦点)、管理職が率先して失敗からの学びを共有
– ばらつき
– チェックリストと例外カードで標準化を見える化、ピアレビューで相互調整
法規・制度と外部資源の活用(日本の文脈)
– インシデント・事故報告とヒヤリハットの仕組みは義務と学習に直結
– 児童発達支援・放課後等デイの自己評価表や第三者評価を、内部学習サイクルに組み込む
– BCP訓練後のデブリーフで災害対応の改善
– 介護・医療連携加算の要件を、定期カンファや記録の質向上に活用
90日アクションプラン(小さく始めて定着)
– 1–30日
– 朝夕のハドル/デブリーフ開始(SBAR/4F)
– 学習ボード設置、改善アイデアを可視化
– 1つの重要ケースで週次カンファを定例化
– 31–60日
– I-PASSで引継ぎ標準化、ピアレビューを月1で開始
– 2件のPDSAを完遂し、効果を測る
– 61–90日
– 初の四半期レトロを実施し、次の3つの重点テーマを決める
– 学習文化のルール化(心理的安全、ジャストカルチャーの宣言)
根拠(なぜ効くのか)
– デブリーフ/振り返りの効果
– メタ分析(Tannenbaum & Cerasoli, 2013)は、デブリーフがチームの学習とパフォーマンスを有意に高めると報告。
短時間でも反復が重要。
– AAR(アフターアクションレビュー)
– 軍/救急/医療で実証され、失敗・成功の両方からの学習を促進。
構造化された問いが学習の転移率を上げる。
– TeamSTEPPSやI-PASSなどのハンドオーバー標準化
– 医療分野の研究で、コミュニケーション訓練と標準化がインシデントを減らす(I-PASSは小児病院での有害事象を減少 Starmerら, NEJM 2014)。
– 心理的安全性
– Edmondson(1999)以降の多数研究で、発言しやすい環境がエラー報告と改善行動を増やし、成績を高めることが示される。
– PDSA/PDCAの小規模テスト
– 医療の質改善で広範に実証。
小さく素早く回すほど持続する(ランチャートで効果確認)。
– アクティブサポートとコーチング
– Mansell & Beadle-Brownらの研究で、スタッフ訓練+現場コーチング+フィデリティ確認が、利用者の活動参加とQOLを有意に向上。
– リフレクティブ・スーパービジョン(社会福祉)
– Proctorモデル(教育・規範・情緒)の三機能が実務能力・倫理・メンタルを支え、離職抑制に寄与。
– コミュニティ・オブ・プラクティス
– Wengerの理論と実践で、暗黙知の共有と実装が促される。
– 参加型共創(EBCD)
– 本人・家族と共にサービスを改善する手法が、満足度と順守を高めることが医療・福祉で報告。
まとめ
– 日々の短い振り返り(ハドル/デブリーフ)、週次のケース学習(AAR/機能分析)、四半期の戦略的見直し(レトロ)の三層ループで、学びを継続的に循環させる。
– 標準化(チェックリスト、I-PASS)と個別化(例外カード、ICF/GAS)を両輪にする。
– データで効果を確認し、心理的安全性とジャストカルチャーで学習を守る。
– 小さく始めて成功体験を積み、文化として定着させる。
これらは障がい者支援の現場特性(多職種・交代制・高い個別性・リスクマネジメント)に適合し、他分野で実証された学習とチーム改善の原理を実践に移す具体策です。
最初の一歩は、明日からの「5分のハドル」と「5分のデブリーフ」からで十分です。
そこにPDSAを1本通すところから、チームは着実に強くなります。
【要約】
障がい者支援は多面的・継続的・関係依存的で、単独では完結しない。多職種と当事者・家族が目標を共有し、一貫した対応、リスク管理、早期介入、意思決定支援、家族支援、スタッフケア、データに基づく改善を回すことで、行動変化やQOL向上、就労定着が実現。就労はIPSが最も実証的。PBSやABC記録の共有で問題行動が低減。SBAR等で安全文化を育み、地域資源へ橋渡し。学習する組織としてPDCAを回す。